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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)182号 判決 1965年2月23日

原告 トウエン・デイスク・クラツチ・カンパニー

被告 特許庁長官

主文

昭和三六年抗告審判第一、〇一四号事件について、特許庁が昭和三八年八月七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一  原告は、昭和三四年二月二一日別紙記載のとおりの構成からなる商標について、旧商標法施行規則第一五条所定の類別第一七類クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置、水力トルク転換装置、水力継手その他本類に属する商品を指定商品として商標登録出願をしたところ(昭和三四年商標登録願第四、五一八号事件)、右商標は特別顕著性を欠き、旧商標法第一条第二項に規定する要件を具備しないとの理由により昭和三六年一月三〇日拒絶査定を受けた。原告は、同年四月二〇日これを不服として抗告審判を請求したところ(同年抗告審判第一、〇一四号事件)、特許庁は昭和三八年八月七日に抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年八月一九日原告に送達されたが、右審決に対する訴提起の期間は同年一二月一八日までとされた。

二  右審決の要旨は、本願商標中の「DISC」の英文字は「円盤」の意味を有する言葉であり、また、同じく「TWIN」の文字は「一双の」又は「双子の」なる意味を有するから、両者を一連に綴ると「対の円盤」又は「双円盤」なる意味を直感させるものであり、かつ、商標中文字の中心に描かれた図形との関係において、この意味はより強調される。したがつて、本願商標をその指定商品との関連において考察すると、指定商品中「クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置」等の機械器具には、その要素として「対の円盤」が装置されていることが明らかであるから、本願商標をこれらの商品に使用しても単にその商品の機構ないし型状を表示するに過ぎず、特別顕著性を欠くから、旧商標法第一条第二項に規定する要件を具備しないものである。また、本願商標を前記商品以外の商品に使用する場合には、前記のような機構ないし型状を有する商品であるかのようにその商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから、旧商標法第二条第一項第一一号の規定に該当し、登録することはできない、というのである。

三  しかしながら、右の審決は、次の理由により違法であり、取り消されるべきものである。

(一)  審決は、「DISC」の文字が「円盤」の意味を、また、「TWIN」の文字が「一双の」又は「双子の」なる意味を有する言葉であることは、英語の普及する現在においては、何人も容易に理解することができるとするのであるが、本来「DISC」の文字は「discount」、「discover」等の略語として用いられることが多く、円盤を意味する場合は極めて稀であり、英語を使用する国においても、かような状態であることは英和辞典をひけば明らかなところである。もちろん、円盤、レコード等を意味する言葉として、「DISK」なる語は存在するが、本願商標中の「DISC」の文字はこれと異なり、それ自体顕著な語であること明らかである。もつとも、「DISC」と「DISK」が同義語であることは認めるが、普通一般には「DISK」の用語が用いられ、「DISC」は稀な用法であるから、世人一般が「DISC」から「円盤」又は「レコード」を直感するものとはいいえない。まして、英語が普及しているとはいいながら、英語を国語としないわが国において商標を識別するのにいちいち英和辞典をひいて如何なる意味を有するかを知つてから、商品の取引をするようなことはありえないことであるから、本願商標中の「DISC」の文字はわが国民にとつて、極めて特異な顕著な語といわなければならない。このことは、本願商標中の「TWIN」の文字についてもいえることであつて、わが国民がこの文字を目して直ちに審決の指摘するような意味を直感しうるとは、到底想像できない。なお、被告は本願商標の指定商品のような商品の取引者は高度の知識を要求されるから、本願商標からはその指定商品との関連において、「対の円盤」又は「双円盤」なる意味合いのものを認識すると主張するが、高度の知識を有すれば有するほど商標に対する識別力は大きくなるものとみるべきであり、たとえ、ありふれた語であつても、そこに出所たる会社と商標との関係を認識して識別力を見出すものである。しかも、本願商標は一般に使用された形跡は全くなく、また、ありふれた語でもないから、商品に対する知識を多く有する者ほどこれに顕著性を見出しうるものである。しかるに、審決が前記のように判断したのは、事実の認定を誤つたもので違法である。

(二)  審決は、「TWIN DISC」なる文字は本願商標中に描かれた図形との関連において、「双の円盤」なる意味をより一層直観せしめるとするが、本願商標中に描かれた図形は円盤でなく、ドーナツ盤である。「円盤」とは真鍮製の円く平たい盤を嵌入した金属輪縁の木製の円型の盤であり、「円板」とは円い平面板であり、その中央部分に円い穴又は空間は存在しない。したがつて、審決にはこの点において、重要な認定上の誤りがある。しかも、その図形は、配置の仕方よりみて、装飾的意義を有するものであり、特定の機械の構造、型状を表現するものではないから、審決には事実を歪曲して結論を導き出した違法がある。

(三)  審決は、本願商標は特定の商品との関連において特別顕著性を欠き、その他の商品との関連においては、商品の品質の誤認を生ぜしめるおそれがあるというのであるが、仮に本願商標をもつて審決が指摘するように「対の円盤」を意味するものとしても、本願商標中の指定商品中の「クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置」等の構造において、「対の円盤」又は「双円盤」はその構成の一部として装置される可能性があるにすぎず、かような部分が機械の統一的な部品として存在するものではないし、また、その必然性も存在しない。たとえ、機械の一部に円盤類似の形状をもつものがあり、これが商標に表わされているとしても、形状あるいは構造という限りは、それ自体を表わすものでなければならず、単にその一部あるいは構成要素を表現したからといつて、それが指定商品の有する複雑な機構ないし形状をそのまま表示するものとはいえないこと明らかであるから、本願商標をもつて直ちに商品の品質を表示するものということはできない。また、本願商標が指定商品について品質表示そのものとして一般に使用されている事実はもちろん、使用される必然性を予測することもできない。したがつて、審決が「対の円盤」を商品の機構ないし型状を示すものと判断したのは全く空想の所産に過ぎず、機械の構造一般の性質を無視したものに他ならない。このことは、その他の商品についてもいえることであつて、本願商標が前記のとおり特定の商品の機構、型状を何ら表現するものでない以上、商品の品質について誤認を生ぜしめるおそれはないものといわなければならない。仮に、本願商標が指定商品の形状を表示することにより商品の品質を表示する可能性があるとしても、商品の形状そのものを表示するものではなく、本願商標の文字及び図形は図案的に構成されているから、これを全体としてみるならば指定商品の形状機構の一部を暗示しているにすぎないものというべく、いわゆる暗示的商標として登録適格を有するものである。

(四)  審決には、旧商標法第一条第二項の規定の解釈を誤つた違法がある。

本来特別顕著性の概念は、商標全体について判断すべきものであり、商標中の特定の一部を取り出して、その顕著性の有無を論ずべきものではない。たとえ、その要部において特別顕著性を欠いても、その全体が顕著である以上は、商標としての登録要件の具備を認めるべきは当然といわなければならない(これが旧法において権利不要求の制度の存在した理由である。)。しかるに、審決は、特別顕著性についてのかような一般原則を無視し、本願商標の各部を一つ一つ取り出してその顕著性の有無を論じたものであり、前記条項の解釈を誤つて判断したものである。すなわち、本願商標は図形と文字との結合において極めて顕著な視覚的効果を意図したものであり、全体として看者に特異な印象を与えるものである。したがつて、たとえその一部にありふれた文字が用いられてあつても、全体としての特別顕著性はそのためにいささかも損われるものではない。ことに原告会社の商号である「トウエン・デイスク・クラツチ・カンパニー」は本願商標の指定商品に関する業界において、日本はもちろん世界的にも知られており、「TWIN DISC」なる文字のある商標をみるならば、原告の商号を想起させるものであるから、本願商標はそのうちのドーナツ型の図形を除いて単に「TWIN DISC」又は「トウエン・デイスク」としても十分自他商品の識別の作用を有するものであり、装飾的な図形のドーナツ型と結合することにより一層自他商品の識別力を持つに至ることは確実である。また、本願商標が特別顕著なものであり、自他商品の識別力を有することは、この商標を何人も指定商品の構造や形状を表わすものとして使用していない事実からしても明白である。そもそも、本来自他商品の識別力の存在が疑わしい場合であつても、他人によりこれが使用される可能性がなく、また、その事実が存在しない場合においては特別顕著性を認めるべきであるが、本願商標のように顕著な商標の場合には、他人が品質表示として使用している事実がない以上、その特別顕著性を否定する合理的根拠を欠くものである。さらに、本願商標の出願人である原告は新潟コンバーター株式会社との間に本願商標の指定商品に関し技術援助契約を締結し、新潟コンバーター株式会社は昭和二七年一二月以来右指定商品及び類似商品の製造、販売に従事してきたものであるが、同会社はその販売に際し商品、技術資料、カタログ等に本願商標を使用してきたものであり、その結果、本願商標は原告の製造に係る商品の標章として全国の取引者及び需要者に周知となつていたものであるから、これにより本願商標は特別顕著性を取得したものというべきである。

なお、本願商標は特別顕著性を有するがゆえに、アメリカ合衆国をはじめとして、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、カナダ、チリー、フランス、インド、イタリー、メキシコ、オランダ、スペイン、スウエーデン、スイス、イギリス等の商標登録制度を有する世界各国において登録されている。もとより、特別顕著性の認定がわが国独自の立場に基づくものであり、他国の判断に拘束されるべきものでないことは当然であるが、取引その他一般社会情勢、交通、通信、貿易等の著しい発展、交流等から他国との差異は著しく少なくなり、そのうえ本願商標の指定商品のように日常生活に直接関係を持たない特殊の機械器具については取引事情、業界における取引者、需要者の商業的関心度及びこの種製品に対する知識水準等は世界各国において余り差がみられないことが推測されるのであるから、叙上の事実は本願商標の特別顕著性の認定に対し、有力な間接的資料となるものというべきである。まして、本願商標が、これらの英語あるいはこれと語属を同じくする言葉を国語とする国々において、その顕著性を認められているにかかわらず、英語を国語としないわが国において英語が普及していることを理由に登録を拒絶する根拠は全く薄弱というほかない。そのうえ、外国登録商標を尊重すべきものとするパリ同盟条約第六条の規定に照らしても、本願商標の登録を拒絶した審決は違法というべきである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因に対し、次のように述べた。

一  請求の原因第一、第二項の事実は争わない。

二  同第三項の点は、争う。

(一)  同項(一)の点について。

本願商標は、別紙記載のとおり、丸ゴシツク体で「TWIN DISC」の英文字を横書きし、この文字のほぼ中間に円盤と覚しきものの図形を対に描き出してなるものであるところ、「DISC」の英文字が「DISK」と同義語であることは「KENKYUS-HASNEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY」第四九三頁により明白であり、「DISC」の文字が原告主張のように「discount」、「discover」等の略語として用いられる言葉であることは必ずしも否定することができないとしても、これはあくまでも文字どおり略語として用いられるのであつて、「DISC」=「DISK」の本来の語義が「円盤」、「レコード」等を意味することは明らかである。したがつて、一般世人は「DISC」の文字から「円盤」、「レコード」等を直感するものであるとするのが、社会通念上相当である。仮に、「DISC」が稀な用法であり、「DISK」が通常の用法であるとしても、両者はともに、「デイスク」の称呼を共通にし、しかも語義が全く同一であるから、両者を区別することなく容易に認識するものとするのが経験則に照らし、相当である。のみならず、「DISC」の文字はこの種業界において普通に「円盤」として使用されている。また、「TWIN」の英文字は日本語で「双子の」、「対の」等の意味を有する文字であることは辞書をひくまでもなく容易に理解することができるから、「TWIN DISC」と一連に書かれた文字からは、「対の円盤」又は「双円盤」を直感するものであることはいうまでもない。およそ、本願商標の指定商品についての取引者又は需要者はその商品の性質上(これらの商品は、価格の点で高価であり、また、その性質、性能等の点において深い考慮が払われることが通常である。)菓子パン、茶、コーヒーあるいは衣料等の商品と異なつて、その商品について可成り高度の知識が要求されるものであることは必然であるから、取引の実際上からいつても、本願商標からはその指定商品との関連において前記の意味合いのものを認識することは、当然のことといわなければならない。

(二)  同項(二)の点について。

原告は商標中に描出された図形は、「円盤」ではなく、「ドーナツ盤」であり、しかもこの図形は単なる装飾的なもので特定の機械の構造、型状を表現するものではないと主張するが、「TWIN DISC」と書かれた文字との関連において、かような図形をも含めた商標全体をみるときは、看者は容易に「対の円盤」又は「双円盤」として、これを認識するのを実験則上相当とするから、本願商標は端的に「対の円盤」又は「双円盤」を表わしたものというべきであり、これをもつて、「ドーナツ盤」であるとすることはできないし、また、図形をもつて、単に、装飾的なものであるとすることもできない。原告の主張は、取引の一面のみを捉えていうものであり、取引の実態を重大な点において無視した見解である。

(三)  同項(三)の点について。

この点の原告の主張は、次のとおり理由のないものである。すなわち、非凡閣発行の「最近工業大辞典(第六巻)」第二四四頁から第二四五頁までに掲載のクラツチの項第二図の摩擦クラツチ(Friction clutch)の部には、「対の円盤」がその主要を構成部分となつていることが明らかであるし、また、丸善株式会社発行の「機械設計便覧」第一三〇三頁及び第一三〇五頁に所載の連動装置の項においても同様に「対の円盤」がその機構上装置されていることが明白である。このように商品クラツチ、連動装置等においては「双の円盤」又は「対の円盤」が必ず装置されている事実に徴すれば、それが仮に暗示的なものであるとしても、本願商標はこれら商品の機構ないし型状、すなわち商品の品質を表わしたものであると取引者及び需要者が認識するものであること必定である。したがつて、また前記の商品以外の商品に本願商標を使用した場合には商品の品質について誤認を生ずるおそれ十分であるといわなければならない。

(四)  同項(四)の点について。

本件審決は、商標全体について特別顕著性の有無を判断したものであつて、原告主張のように商標中の特定の一部を取り出して顕著性の有無を判断したものではない。すなわち、審決は、本願商標が「TWIN DISC」の英文字と平面的な円盤の図形を顕著に表わしたものであるから、いわゆる文字と図形の結合にかかるものであり、「TWIN DISC」と一連に続けた英文字とその文字の中心に描かれた図形との関係において、看者は両々相まつて「対の円盤」を容易に想起するものであることを述べ、本願商標を全体観察して特別顕著性がないものと判断したものである、また、原告は使用による特別顕著性を主張するが、本願商標が需要者又は取引者に広く認識されているものとは認めえないし、または、本願商標が原告の商号を想起させるものであるとの点も、原告会社のわが国における著名度は未だ十分なものとは認められないから、本願商標がこれらの点から出所表示としての機能を具有するものとはいいえない。

なお、原告は本願商標と同一のものが世界各国で商標登録されていることを主張するが、これらの国と法制の異なるわが国とは同一の根底に立つて論ずることはできず、独自の見地において商標の特別顕著性を判断しうること当然である。また、同盟条約第六条に規定する精神を尊重すべきこともちろんであるけれども、同条乙一の規定に照らせば、特別顕著性を欠くものについては、その登録を拒絶しうることが明白であるから、審決には何らの違法も存しない。

第四証拠<省略>

理由

一  本願商標についての特許庁における審査、審判手続の経緯及び審決の要旨並びに本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願年月日についての請求原因第一、第二項の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、本願商標が指定商品中「クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置」等の機械器具との関係において、特別顕著性を欠くかどうか、及び指定商品中のその他の商品との関係で品質の誤認を生ずるおそれがあるかどうかということにあるから、以下この点について判断する。

(一) 前掲争いのない事実によると、本願商標の構成は別紙記載のとおり、丸ゴシツク体で「TWIN DISC」の英文字を横書きし、該文字の中央部分に、一部分重ね合わさつた二個の輪を描いてなるものであることを認めることができるところ、右の文字部分が「双円盤」又は「対の円盤」を意味するものであることは、それが英文字で記載されたものであるとはいえ、右の文字が英語として簡易、平明な語であること、まして、本願商標の指定商品は日用の生活必需品等の場合と異なり、その価格も高価であり、この種商品の取引者及び需要者は商品の性質、性能等についてある程度高度の技術的知識を有しているものと推認できることから、これらの者は本願商標の英文字が上記の意味を有することをたやすく認識しうるものと認めるのが相当であり、また、本標商標の図形部分は前記のとおり正確には一部重ね合わさつた二個の輪を表わしたものとみられるが、右の英文字の意味と関連させた場合には、右の図形が円盤を図案化して表わしたものであることを容易に想到しうるものということができる。原告は、普通一般の用語としては「DISK」が用いられ、「DISC」の用語が用いられることは稀であるから、「DISC」から「円盤」を直感するものとはいいえないし、また、図形の部分はドーナツ盤であつて円盤ではないと主張するが、叙上認定の事実に照らして、右主張は容認できない。

(二) 被告は、本願商標の指定商品中の「クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置」等の機械器具には、その機械の要素として、「対の円盤」が装置されているから、本願商標をこれらの商品に使用しても単にその商品の機構ないし型状を表示するに過ぎないし、これをその他の指定商品に使用した場合には、商品の品質に誤認を生ずるおそれがあると主張する。しかして、成立に争いのない乙第二号証の二及び同第三号証の二、三に掲載の図面によれば、これに記載されたクラツチ及び連動装置のなかには、対の円盤がその機構の一部として装置されているもののあることが認められ(もつとも右乙第二号証の二中第二図に示された摩擦クラツチを除いたその余のものは、その側面からみた形状が円筒状、円錐状のもので、その機構も複雑であり、正確には通常円盤の語から受ける平盤状を示してはいない。)、対の円盤が、クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置等の機構の一部として装置される可能性があるものとはいいうるであらうが、被告提出の全証拠をもつてしても、未だそれがこれらの装置に必須の構成要素であり、これらの装置を端的に示す一般的な特徴をなすものと認定することはできない。してみれば、本願商標が前説示のとおり「対の円盤」なる意味を有し、その図形が「対の円盤」を表示するものであるからといつて、ただそれだけで、これがその指定商品クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置等の機構ないし型状を明らかに表示するものということはできないし、また、仮にこれら商品が被告のいうように対の円盤を具有するとしても、単にその構成の一部だけを挙げて直ちに取引者、需要者をして他に複雑な機構ないし型状を有するこれら商品を連想させるものとは到底解されない。ことに、本願商標は、前示のとおり「TWIN DISC」の英文字を丸ゴシツク体で横書きし、右英文字の中央部に二個の輪を一部分重ね合わした図形を図案化して描出してなるものであり、構成としては比較的簡単ではあるけれども、文字と図形の配置の仕方において特異な構成を有するものというべく、これにより看者の注意をひくに十分であり、しかも、右の英文字が原告の商号「トウエン・デイスク・クラツチ・カンパニー」を略記したものと解され、かつ、右商号がわが国においてありふれた商号と認められない点に徴すれば、仮に「対の円盤」がクラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置等を暗示する場合が皆無でないとしても、なおその指定商品との関係において自他商品の識別力を有するものと認定するのが相当であり、この判断を左右するに足る証拠はない。

してみれば、本願商標は特別顕著性を有するものであり、被告主張のように指定商品中の特定商品との関係においてその商品の機構ないし型状を表示するもので特別顕著性を欠き、また、その余の指定商品に使用する場合において商品の品質の誤認を生ぜしめるおそれがあるものと認めることはできないといわなければならない。

三  叙上説示の理由から、本願商標が、指定商品中の「クラツチ、連動装置、減速装置、船舶用逆転装置」等の関連において、これら商品の機構ないし型状を表示することを理由に特別顕著性を欠くものであり、また、指定商品中その余の商品に使用した場合には、商品の品質に誤認を生ぜしめるおそれがあるものとして、本願商標の登録を拒否するのを相当とした本件審決は、その余の点について判断するまでもなく失当であり、その取消しを求める原告の本訴請求は正当である。

よつて、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原増司 福島逸雄 武居二郎)

別紙

本願商標<省略>

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